<Lily of the valley-俺、頑張ります・・・何だか頑張れそうなので>





テオドーロさんの後ろを付いて歩い行く。行き先はきっとあの会議室だろう。
予測した通り、テオドーロさんは会議室の中に入っていった。
俺も続いて入って行くと、そこには見慣れた姿があった。

「お祖父様、それに・・・どうして貴方がいるのかしら」

テオドーロさんを待っていたらしいティアは俺の姿を視界に認めた瞬間、表情がいつも以上に厳しいも
のになった。冴えた色の青い瞳を眇めて、ティアは俺を一瞥した後、気を取り直すように咳払いしてテ
オドーロさんに自分の用件を切り出した。

「お祖父様。教会への報告も兼ねて外郭大地に戻りたいのですが」

「うむ。それは構わない。しかし条件が一つある」

「条件ですか?」

「彼も一緒に連れて行きなさい」

「・・・・・・」

「え・・・、ちょっ、テオドーロさん何言って―――」

「貴方は黙っていて」

睨みの効いたティアの視線に、俺はひとまず言葉を飲み込んだ。
いきなりティアに俺を外郭大地に連れて行けって、テオドーロさんは何考えてんだよ。
てか、俺の意見は通してもらえないのか?俺のことなのに、二人で決めちゃうんですか。
言いたい事は沢山あったけど俺は必死に沈黙を守った。ティアは暫く考え込んで、それからゆっくりと
唇を開いた。

「それは命令ですか?」

「そうじゃ」

テオドーロさんはきっぱりとした口調でティアの言葉を肯定した。ティアはテオドーロさんから視線を外
して俺の方を振り返った。俺は口元に手を添えて発言を控えていた。その俺を見てティアは一つ溜息
を零すと頷いて

「解りました。ルークと外郭大地へ向かいます」

頭を下げ、テオドーロさんに背を向けた。踵を返したティアの長い髪が動きに合わせて靡いている。
ティアの後ろを付いていくように流れる髪の毛先が俺の目前を通り過ぎた時、テオドーロさんに名前を
呼ばれた。

老人はゆっくりと腕を持ち上げて、指先で会議室の出口を示しながら静かに言った。

「ルーク。貴方の行動次第です」



その言葉が一体何を意味していたのか。



入り口の方でティアが呼んでいるのが聞こえる。
響いてくるソプラノに急き立てられるようにして俺はテオドーロさんに一礼しその場を後にした。











「ユリアロードを通って外郭大地へ向かうわ。タルタロスは大佐たちが乗って行ってしまったし・・・」

「あぁ」

街を歩きながらティアから淡々と話される内容に、俺は大した感慨も無く相槌を打つ。
それが気に入らなかったのか、前を歩いていたティアがちらりと俺を見た時の目が半眼になっていた。
・・・怒らせた?
テオドーロさんに俺を押し付けられたことでティアが纏っている雰囲気がピリピリしているのが嫌でも解
った。だから出来ればティアとは一緒に居ない方が良いのかな、何て考えたけど、俺が突然姿を消し
たら消したでティアには迷惑がかかるだろうしな・・・。
そんな事をつらつらと考えながら歩いていたら、ティアがいつの間にか足を止めていた。
気が付いたら、既にユリアロードまで辿り着いていた。譜陣の描かれた中心にティアが立って俺をじっ
と見ている。早くしろってことか、な。
何やら足下でそわそわしているミュウを拾い上げて俺は意識してティアより僅かに距離を置いた譜陣
の上に立った。足下が光り輝きだして、全てが飲み込まれる瞬間―――





何故かティアの顔が今にも泣き出しそうに歪められているように見えた。





眩しいくらいの輝きが急速に収まっていき、今度は別の光が俺の目を差した。
それはちょっと久しぶりの太陽の日差しだった。俺は何度かシパシパと目を瞬いて太陽光に目を馴ら
した。肩に乗っかっていたミュウも鳴きながら短い手で目を擦っていた。ティアは慣れているのか、それ
とも既に目が慣れたのかしっかりとした足取りでさっさと湧水洞の入り口に向かって歩き出していた。
その後ろを慌てて追いかけて若干距離を置きながら付いて行く。洞窟の中に入り、ひやりとした空気が
頬を撫でる。冷たい空気を肌に感じながら、俺は奥に続く道の先をぼんやり見ていた。



本当ならこの先にはガイが待っててくれたんだよな。

俺を信じて、たった一人で。

でもきっと今回は居ないと思う。

だって俺から離れて・・・アッシュの元へ自ら行ってしまったから。



俺は勝手にそう思い込んでいた。だから暗がりに光る金色を見つけたときは信じられなった。





「・・・が・・い・・・?」

「どうした、ルーク。もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?折角待っててやったのに」

呆然と見返すことしか出来ない俺の目の前で、ガイが柔らかく微笑んだ。
それはいつものガイの表情だった。
けれど<この世界>に来て、ガイが俺に笑いかけてくることなんてもう二度と無いだろうと思っていた。
だから泣かないって決めていた筈なのに、俺の目からは涙が溢れてしまった。
嬉しかった。たった一度だけ向けられたその笑顔がどうしようもなく嬉しくて。
ポロポロ零れる涙を拭いながら、俺は笑顔を作った。

「待っててくれて有り難う、ガイ」

「ルークが、礼を・・・」

唖然とするガイに、俺は静かに歩み寄って行った。
目を丸くして見つめてくる碧眼を真っ直ぐに見据えて

「俺は罪を認めない」

「・・・ルーク」

ガイの顔から表情というものが抜け落ちる。後ろでティアが深く息を吐き出したのが気配で解った。
無表情になったガイに、俺は思っている事とは真逆の言葉を吐き出し続けた。
キリキリと胸が痛んで悲鳴を上げていたけど無視した。

「悪いのは師匠だ。俺だけが絶対に悪い訳じゃない」

「もう良い、解った」

一言、半ば遮るようにそれだけ言うとガイは踵を返して洞窟の奥へ進みだした。
俺を残して歩き出したガイを追ってティアが脇を通り過ぎていく。
それを眺めていると、肩に乗っていたミュウが気遣うように小さく鳴いた。
俺はミュウに微かに笑いかけると、重い足を動かし始めて二人の後を追いかけた。










甘えちゃいけない。

俺はアッシュを連れ戻しにここへ来たんだ。



だから、頼むから―――



俺に優しくしないで下さい。





離れる時が辛くなってしまうから。





それでもまた優しく声を掛けられる事を心の片隅で望んでいる俺は、やっぱりどうしようもなく駄目な奴
だよなぁ。














ごめんなさい。・・・有り難う。



















やっぱり何だかんだでガイは優しい人。
唯一パーティーの中でルークを気遣ってくれるのです。
他メンバーはキツイですよ。特に死霊使いとか・・・。

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03.13